拳で抵抗を示す二十一歳の彼を見て、暴力は虚しいと思い、争いがなくなって世界が平和になってほしいのでラノベにしました。

「おいそこのお前!『例のブツ』を取ってこい。ならばお前だけでも許してやるよ!」
イキのいい中学生の声が辺りに反射し、まるで木霊のようになって我々の耳に届く。

我々は一瞬、それが自分たちに向けられたものだとは思っていなかったがために、間抜けにも口をぽかんと開けた。

しかしそれが自分たちに向けられたものだと認識した瞬間、このような敵意を向けられたのは何年振りだ、と酷く感銘を受けたことを脳裏に焼き付けた。
「……我々になにか用かね?少年」

私はアイスキャンデーを少しずつ舌で溶かしていくような感覚で、ゆっくり、ゆっくりとその瞬間、刹那を楽しむ。

このような甘美な時間を一瞬で終わらせてしまうのはあまりに勿体無い。

そんな私の回りくどい態度に苛ついたのか、イキのいい中学生のうち、先頭に立っていた者が勢いよく啖呵を切る。

「当たり前だ!お前たちの持っているブツが、命が惜しければ、例のブツを取ってこい」
私は、私に同伴しているメガネの彼顔を見合わせ、肩をすくめた。

やがて目と目で意見を交換した我々は、その中学生達の『お遊戯』に乗ってやることにした。

「我々にその義務はあるのかね?」

「あるに決まってんだろうが!てめぇらがアレを投げ捨てなければ全ての『計画』は上手くいってんだ!いいところで邪魔してくれやがって!」

「計画?あぁ、もしや君達は、あの『おもちゃ』を使ってなにかをする気だったのかね?はは、これは傑作だ」

「なにが可笑しい!今ブツを自らの手で、反省しながら取りに行けば、てめぇらが大切にしている『ヤツ』と、てめぇらの命だけは保証してやる!」

中学生達はナイフ、バットなどの、日常生活で見かけることのあるような物を取り出し、我々にそれを向けてきた。

しかし私の目には、未熟な爪を持った子猫を連想させるほどにしか映らなかった。

こんなものか、と威勢良く声をかけてきたのは、若さゆえの過ちか――とがっかりした私は彼らに『深淵』を見せてやることにした。

「そんなものを取り出して、私と戦う気かね?」

「おいおい聞いたかみんな!こいつ、ナイフを持った奴を目の前にして戦う気かどうかなんて聞いてきやがったぜ!」

「……ふむ、戦う気のようだな。ならば我々とて抵抗するのみだが……」

「抵抗?どうやってだよ」

「勿論――」

私は前歯につけた、50000000000000キロの重りを外す。
まるで隕石が落ちたかのような轟音を立て地面は凹み、中学生達はどよめいた。

私は軽く拳をぶつけ合わせて準備運動の代わりとし――。

――その刹那、私は全力の内の一割の速度で動き、威勢のいい中学生のリーダーの胸に一撃必殺の拳を突き立てた。

「――拳で」

彼は呑気にも疾い、見えない、すごい、いつの間に、などの感想を頭に浮かべたようだが、それらが発声されることはついぞなく、代わりに掠れた声を喉から精一杯捻り出すだけだった。

そんな彼が唯一言葉に出来たのは。

「怖い」

極めてシンプルな原初の感情、恐怖のみを胸に刻まれた中学生は、ただその一言のみを口にして、その場で崩れ落ちた。

だが中学生は、その圧倒的な差すらも覆してやろうと、震えながらも気丈に、声を震わせながらも言い放った。

「と……とりにいけ」

発声技術が拙い幼子のようなか細いものだったが、それは私に関心を抱かせるものとしては十分なものだった。

「実に興味深い。何故君達は頑なに自らそれを取りに行こうとはせず、我々に要求するのかね?」

「て、てめぇらがやったことだろ!せ、責任はてめぇらが……」

「我々が言っているのはそういう事ではないと分からないかね?私が君たちの浅はかな思考を読み取れないとでも?」

「……!」

「君達は何に恐怖しているのだね?」

「だ、誰が――」

先ほどの恐怖を忘れてしまったのか、物覚えの悪い中学生達は再び私にナイフを向けた。

だが、私の相方はそれを見逃すほど愚鈍でも間抜けでもなかった。

彼はメガネを外すと、動き出した彼にその手のひらを向けた。

すると彼らは、まるで上から圧をかけられたようにひしゃげ、その場に全員が崩れ落ちた。
「な……に……!」

「おいME-GANE《エムイー-ガーネ》、あまり本気を出しすぎるな」

「すまないなMA-EVA《エムエー-エヴァ》。まさかこの程度だとは思わなかったのでな。余達に歯向かってきたのだから、それなりに見識があると思ったのだが……『到達者』ですらなかったのだな」

「どうやらそうらしいな」

私は再び彼らに歩み寄り、語調をキツくして再度問いかけた。

「このように、我々が君を殺すことは容易い。我々の気が変わらないうちに、君が何に恐怖しているかを口にすべきではないのかね?」

「うっ……うっ……」

中学生の瞳は涙で濡れ、発しようとした言葉は声にすらならないようだった。

彼らは今後悔しているのだ。自らの愚行を。
やれやれ、これは相当の時間を必要とするだろうな――と肩をすくめた瞬間、我々の意識外の方向から声が飛んでくる。

「そこのクズどもが恐怖しているのは、俺の存在だ」
「――ほう?」

「君らが我々の計画を察知し、例のブツを投げ飛ばされてしまい、任務の失敗によって消されてしまう、ということを恐れているのだ」

そこにいたのは、大層老け込んだ老人。
その雰囲気から、彼は我々と『同類』だと判断する。

「私はコードネームKO-CHOU《ケーオー-チョウ》。彼らの統率者だ」

「ふん、KO-CHOUね。噂には聞いたことがある」

「俺は名乗った。君たちも名乗ればどうかな?」

「あいにく貴様に名乗る名前などない」

私は中学生達とKO-CHOUの間に挟まる形で立ち塞がり、彼らの盾となった。

彼らは何故、どうして、と狼狽を隠せないようだった。

「ど、どうして俺たちを守るんだ」

「我々は別に、君たちに恨みがあるわけじゃないからな」

「あぁ。余とて、目の前若い命を散らさせるのは趣味ではない」

私とME-GANEはKO-CHOUに啖呵を切る。

そんな我々の姿を見た中学生達は感動で涙を流しているようだった。

背後から「かっこいい」という呟きすら聞こえる。

「あ、アンタら、一体何者なんだ」

「ふっ、この男からならば答える気はないが、君がそう問うなら答えよう。我々は――」

そう、私が一瞬中学生の方を向き直った瞬間、KO-CHOUは仕込んだナイフを手に持ち、神速で襲いかかってきた。

だが私はそれを介せず、華麗に優雅に、まるで白鳥のように、ただの一撃の蹴りをお見舞いすると彼はその場で絶命し、死してなお私への謝罪を口にしながら命の灯火を小さくしていく。

「――そう、我々は『二十一歳アストラル・ディザスター』だ。覚えておきたまえ」

「二十一歳……かっこいい」

中学生は私を憧れを抱くような、神を見るような目で見ている。

「あの……俺と友達になってください!」

「……ふっ、いいだろう」

そして私と中学生は、圧制者がいなくなった平和になったこの世界で晴れて友となったのだった。
ただ人を殴るだけでは、人と争うだけでは得られないものがある。

私と彼らの間に絆が生まれたように、いつか全人類が平和になりますように、と私は願いを込めたのだった。

この物語はフィクションであり、現実の人物・団体とは一切関係ありません。

この物語はフィクションであり、現実の人物・団体とは一切関係ありません。

この物語はフィクションであり、現実の人物・団体とは一切関係ありません。

現場からは以上です。




    • このエントリーをはてなブックマークに追加